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お久しぶりです〜再び。物語を載せてみます。 [舞台]

ご無沙汰しています。
ほぼ、一年ぶりの更新です。

今回は、舞台の脚本の会話改訂版を載せてみます。

この舞台は、2011年の8月に上演された、シアターまあの第二弾の舞台の台本です。

もとは舞台の台本ですが、これはそれを改訂しています。
もともとの台本にあったト書きはすべてカットしています。会話だけです。

登場人物の誰の会話なのかを、予想しながら読んでください。

わかりにくいかも知れませんが、やってみたかったので、やってみます。

震災後の舞台です。

この舞台では、「普通を手に入れるために、生涯をかけた決断をする女の子と、その決断に納得が行っていなかった女の子が、理解する物語です」

当時、「普通を手に入れるために、どんな思いをしていたのか」ということを思って書きました。

読んでみてください。

妹尾



「ホントウの間柄」その①

登場人物
○野本明日香(ラジオAD)     (23)
○杉浦浩美(医大生)        (24)
○有藤波子(田中荘管理人)       (35)
○小林高弥(個人タクシー運転手)    (40)
○エリザベス麗子(占い師)       (41)



○夏・正午近く

「あ、フランシーヌさん。おはようございます」
「おはよう。昨日言わなかったっけ?」
「何を?」
「今日から、あたし、エリザベスって名乗ることにしたって」
「聞いてませんよ」
「じゃあ、言ってないんだ。あのね、今日から私はエリザベス。エリザベス麗子。リズって呼んで」
「リズ…」
「エリザベスはリズなんだよ」
「なんでまた?」
「エリザベスの頭のエと、お尻のベスを取って残りがリザ。リザ、リザ、リズァ、リズァ、リズ。ほら、リズ」
「そうじゃなくて。なんで今日から名前を変えるのかなあって…」
「今夜から河岸を変えるのよ。新宿から渋谷」
「ああ」
「新宿は最近幸薄いやつが多くなっちゃってさあ。時代かねえ。占っててもこっちがズーンと落ち込んじゃうんだよね」
「あー」
「だからショバ、渋谷に変えようかなって。バカが多いから楽だし」
「占い師も大変なんですね」
「身を削る思いよ」
「でも、なんでエリザベスなんですか?」
「リズね。ほら、死んだじゃん。エリザベス・テイラー。追悼よ追悼」
「なるほど。ハリウッドの大変な美人女優でしたっけ?」
「昔一回、似てるって言われたことあるんだ」
「……」
「なに?」
「いえ」
「納得行かないって顔してる」
「してません」
「ならいいんだけどね」
「…ふう」
「お茶もらうよ」
「あ、どうぞ」


「リズさん」


「リズさん… リズさん!」
「やだ、あたしのこと?」
「リズって呼べって言ったのそっちじゃないですか」
「馴れてないからさ。メンゴメンゴ。何?」
「夕べはあのあと、ずいぶん飲んだんですか? ここで。明日香ちゃんと」
「飲んだ飲んだ。あいつぁ、うわばみだね。ザル」
「しかも、夕べは明日香ちゃん、機嫌がよかったから」
「ねえ。あんなにウキウキした明日香見たの、久しぶりだわ。初めてかもしれない」
「そりゃそうですよ。子供の頃からの憧れの男性と、今日から同じ屋根の下で暮らすんですから」
「まあね」
「どんな人なんですかね。聞きました?」
「聞いた聞いた。5回ぐらい聞かされた。明日香のやつ、同じ話ばかり何回もするんだよ。ひょっとしたらあいつ新橋のリーマンかもしれない」
「新橋のリーマン?」
「新橋のリーマンって、酔うと『同じこと何度も言うマン』に変身するんだよ」
「その先輩って、どんな人だって言ってました?」
「もう絶賛の嵐よ。背が高くて? ハンサムで? 柔道部の主将で? 医大生で? やさしくて? あたしの理想の男性だって」
「へえ。誰かに似てるとか?」
「チャン・グンソク」
「すごーい」
「軍手じゃないよ」
「は?」
「スルーしていいよ」
「はい」
「でも、同じ下宿で間違いを起こさなきゃいいけど」
「そんな、明日香ちゃんはそんな子じゃないでしょう」
「ノンノン。あたしと彼とが」
「そこは自重してくださいよ」
「どうする? グンソクが、小柄の年増が趣味だったら」
「知りませんよ。この下宿で変なことしないでくださいよ」


「あ、おはようございます。小林さん」
「おはよう。フランシーヌさんもおはよう」
「リズって呼んで」
「え?」
「今日から私は、エリザベス麗子」
「エリザベス麗子? なんで?」
「あとで説明します」
「別にいいよ」
「あれ? 小林さん、今日は非番にするんじゃなかったんでしたっけ?」
「うん。非番」
「いいわねえ。個人タクシーは。自分で勝手に休みが決められて」
「占い師は自分で決められないんですか?」
「曜日で場所決まってたりするからね。休むと仲間からしかられる」
「ふーん」
「どうしたんですか? まだ寝てる時間でしょう?」
「明日香ちゃんに頼まれたんだよ。駅まで、例の先輩を迎えに行くから俺の車出してくれって。明日香ちゃんは?」
「まだ寝てます」
「なんだよぉ。人にお迎え頼んどいて、寝坊かよぉ」
「あたしが夕べ潰しちゃったからね。酒で」
「明日香ちゃん、お酒強いんでしょう? ザルだとか言ってましたよね?」
「あいつがザルなら、あたしは枠。枠だけ。網もないから、ストーンと酒が入っていく」
「なんだか聞いただけで酔ってくる」
「おーい! 明日香チャーン! 起きないのかぁ?」


「しょうがないなあ。時間あんまりないんだよ。彼、もう駅に着いちゃうよ」
「明日香ちゃんいないと、どの人か分からないですもんね」
「それは大丈夫なんだよ。顔写真借りてるから」
「うそ! 写真持ってるの?」
「うん。明日香ちゃんに借りた」
「バカ。なんでそれを先に言わないの!」
「言う時間なんてあったっけ?」
「さあ! 写真! とっとと出す!」


「うわぁ… これはハンサムだわ」
「ハンサムなんだよ」
「背が高そうだ」
「高そうなんだよ」
「顔、ちっちゃ」
「ちっちゃいんだよ」
「本当に柔道部?」
「見えないんだよ」
「でも、医大生っぽいかも」
「ぽいんだよ」
「医者になったらあたし見てもらう。というか、全身見せちゃう。ガバッと開いて」
「医者も大変だ。患者選べないから」
「おい」
「イテ。じゃあ、ちょっとオレ、迎えに行ってくるわ」
「あ、ちょっと待って。もっかい写真見せて」
「え? ああ、ハイ」
「なに、リズさん。占えるの?」
「エリザベス麗子をナメるなよ」


「あっ… えっ?」
「なに?」
「いや、何でもない」
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」


「どうかしたんですか? リズさん」
「まさかなあ…」
「ふわあ…」
「あ、明日香ちゃん。おはよう」
「うん」
「大丈夫?」
「うう。ダメかも」
「おやおや。大好きな男と会えるからって、そんなにめかし込んで」
「まだパジャマですよ! ああ、頭がガンガンする」
「そんなに飲んだの?」
「飲まされたんです。前祝いだとか言われて」
「途中であんた、なに飲んでるか分からなくなってたでしょう?」
「なんで?」
「だって、途中からあたし、焼酎水で割るのやめたんだもん。なのに、あんたクイックイッて行くんだから。おもしれーと思って。きっとベロなんかバカになっちゃってたのね」
「小林さんは?」
「ああ、もう例の杉浦君? 迎えに行ったよ。明日香ちゃんおきねーのかとかブツブツいいながら」
「まずい! もうそんな時間か。酒抜かなきゃ。こんな顔、見せられない」
「百年の恋も冷めるってやつだわ」
「波子さん。お風呂沸いてないよね」
「さすがにこんな時間には沸いてないわ」
「だよね。シャワーでいいや。浴びてくる」
「はーい」


「リズさん、お茶もういいですか?」
「ああ、いいよ」
「明日香ちゃんをあんまりおもちゃにしないでくださいよ」
「だけど、散々のろけられたんだよ! 夕べ。途中から、あたしムカッとしちゃってさあ」
「そんなにのろけられたんですか」
「そうだよぉ。もう、結婚式前日の花嫁みたいにはしゃいでなぁ」
「よっぽどうれしいんですね。会えるの」
「あたしより先に行こうとするヤツは全員勘弁しない。明日香さあ、杉浦君? その子がここに住むことになったら、チャンスを見て、絶対アタックするんだってよ」
「アタックって、告白するってこと?」
「そう。とんでもないだろ?」
「とんでもなくはないと思うけど」
「ふてえアマだよ」
「言い過ぎ」
「『学生時代の私はどうかしてた。それとなく浩美先輩に気があるようなフリをして、向こうから持ちかけてくるようにしむけてた』だって」
「へえ」
「『それが間違いだった。こっちからガンガン行くべきだった』とか言っちゃって。アメリカに留学されたときには相当後悔したみたいだ」
「そうなんだ」
「そうそう。こんなことも言ってた。『あたしにはわかる、先輩も絶対に、あたしに惚れてたはず。少なくとも、憎くは思ってないはず。あれ、行ってたらいけたな』だって」
「明日香ちゃん、プラス思考だから」
「無鉄砲ともいうけどね」
「留学って3年間でしたよね」
「3年間」
「連絡とか取り合ってたのかしら」
「メールでは連絡してたみたいだね」
「ああ、そうか。それでここの下宿を紹介することになったのか。ちょうど一部屋開いてたからよかったですよ」
「よくないよ。恋が成就したらどうするつもり?」
「祝福して上げればいいでしょう」
「言ったでしょう。あたしより先に行こうとするヤツは勘弁しないって」
「世の中にはリズさんの先を越す人は多いでしょう」
「日に日に、どんどん人数増えていくのよ。やだねえ。嫌い」
「じゃああたしも? あたし、先越しましたよね」
「あんたは確かに一回先を越したけど、帰って来たからいいの。許す。よく帰って来た。偉いぞ」
「ほめられたくないぃ」
「絶対に邪魔してやる」
「そんな」
「ただ… ね。もしかするとその必要はないかもしれない」
「ん?」
「さっき顔写真見たとき、ちょっと変なものを感じたんだよね」
「変なもの? なんですか?」
「それがなんだかよく分からないんだけどさ。小林が帰って来たら教えて」
「わかりました」


「変なの…」

○同日・正午過ぎ

「ただいま…」
「ああ、小林さん。お帰りなさい、早かったんですね。リズさぁん! 小林さん帰って来ましたよ! …あれ? 小林さん一人? 会えなかったんですか?」
「いや、会えた…」
「どこにいるんです?」
「今、トランクから荷物下ろしてる…」
「彼、どこ?」
「それが…」
「どうしたんです?」
「あ、不細工になってた? 目茶苦茶デブになってたとか?」
「いや… たしかにこの人に間違いないんだけど… ああ! こっちです!」
「初めまして。お世話になります。杉浦浩美です」
「!」
「!」


                            〜②に続く
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